環境マネージメントゲーム Ver.0.98A by 出口 弘
9809
deguchi@econ.kyoto-u.ac.jp
プレーヤへの手引き
【ゲームの目的】
環境マネージメントゲームは、一定の閉ざされた環境のもとでの羊の放牧によって生計をたてる仮想の集団のグループゲーミングシミュレーションである。プレーヤはMOU(マネーユニット:マウと読む)という単位の現金で羊や食料などの取引をゲームファシリテータと行ったり、羊を借りることができる。プレーヤは自らの豊かな生活を目指してこれらの取引を通じてゲームを行う。各期の終わりに手持ちの羊にその期の共有地の羊の総量に依存した増殖倍率をかけた羊が今期の期末の増殖分を含む羊数として与えられる。個々のプレーヤは羊を増やすことでその生活は豊かになるが、共有地全体で羊を増やし過ぎると羊の増殖率が低下するという社会的ジレンマ状況が成立する。
【ゲームの進めかた】
ゲームは、数人(およそ5〜15人程度)のプレーヤと一人のゲームファシリテータ(ゲームマスター)によって、おこなわれる。
【用意するもの】
- 羊を表わすチップ(おはじきなど)、電卓、筆記用具
- お金を表わすチップ:お金の単位は、MOU(Money Unit)というものを用いる。
- 消費財を表わすチップ:食料、服、宝石など(ない場合はカードに購入品を記入してプレーヤの前に置く)
消費財のうち、食料は毎期にプレーヤ毎に1単位(2MOU)づつ消費される。食料以外の消費財は、専用のカードやチップを用意して、それに各期の番号をふって各プレーヤの前に明示的に置いておく。ゲームの終わりに、或いは途中でもこのチップをみることで各プレーヤがどのような豊かさの生活をしているかを他のプレーヤも知ることができる。
- 借金管理表
プレーヤは羊を借りることが出きるが、その借りた羊は次の次の期に倍にして返却する必要がある。そのため各々のプレーヤがどの期に羊を何頭借りてどの期に何頭返す必要があるかを記録するものを作っておく。
【プレーヤの期首の状態】
*プレーヤは期首には羊3チップだけを持っている。現金は持っていないとする。
【プレーヤのやること】
プレーヤは期首に羊を売って現金を入手し、食料や消費をする。
あるいは羊をゲームファシリテータから借り入れるか、現金で購入してもいい。羊を売却、あるいは購入する際の価格は、ゲームを通じて羊1頭あたり2MOUであるとする。
プレーヤは期末に羊の頭数と環境に応じて、羊が何頭に殖えたかをゲームファシリテータから通知される。倍率は1~2倍の間で変動するが、その正確な決定方式は教えられない。毎期羊の総数と増殖倍率をファシリテータから通知される。また仮に羊の増殖率が1となったとしても、それは羊が増えないだけで親羊は死なないものとする。
・羊の借金:羊を借りたものは、次の次の期に2倍にして返す必要がある。
いちど借りた羊は、次の次の期に返すという形でしか返却できない。
羊は現金で買うこともできる。(ただし現金収入の道は、羊を売ることだけである)
・一期に売ることのできる羊・借りられる羊の数は7頭まで。羊を借りたプレイヤーは、来来期の期首に借りた2倍の羊を返却しなければならない。
破産のルール:ここで破産が生じるのは、プレーヤが借りた借羊を返却できなくなったとき或いは、食料の購入ができなくなったときとする。ただし食料購入は、借りた羊を売却することによっても可能とする。しかし当該の期に返すべき借羊を返さずに次の羊を借りることはできない。
破産したプレーヤは初期状態の3頭羊を持つ状態に戻ってゲームを再開する。
財の価格
羊:2MOU
食料:2MOU 毎期必ず消費しなければならない。
もの資産:服2MOU、ラジオ2MOU、テレビ4MOU、洗濯機4MOU、宝石2MOU、家20MOU 、車14MOU
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環境マネージメントゲーム簡易記録表
期( ) プレーヤ名前( ) 日付( )
期首羊数 ( )頭 期首現金( )MOU
期首物資産 ( )MOU 食料購入( 2 )MOU
羊売却 ( )頭 羊購入 ( )頭
今期返却羊数( )頭 --前々期の借入羊×2
物資産購入 ( )MOU ----内訳:____________________
今期借入羊数( )頭
今期羊数小計( )頭=期首羊数-羊売却数+羊購入数+今期借入羊数-今期返却羊数
税金羊 ( )頭 補助羊 ( )頭:税補助制度の時
増殖前羊数 ( )頭=今期羊数小計-税金羊+補助羊
共有地増殖倍率( )倍 ファシリテータが計算してプレーヤに通知する
増殖後羊数 ( )頭 期末現金( )MOU
期末総資産=期末物資産+期末現金+期末羊=( )MOU
ファシリテータへの手引き
(この手引きはプレーヤには配布しない)
1. このゲームは複合的な目的を持つ、個々の主体は一見単純なルールからなる意思決定を行なうが、複数の主体が相互に関係することで、予想外の複雑性が生じる。この小さな実験から我々は、経営学的、経済学的、社会学的なさまざまな知見を学ぶことができる。
2. このゲームでは、羊の放牧頭数が増えるとともに、環境が悪化して羊の増える率が悪化すると考えている。ただしゲームプレーヤはその倍率を直接知ることはできない。
3. 用意するもの:
- 羊を表わすチップ:これはポーカーチップを利用するのが便利である。むろん色のついた紙やコインでもよい。
- お金を表わすチップ:お金の単位は、MOU(Money Unit)というものを用いる。
- 消費財を表わすチップ:食料、服
これらのうち、食料だけは毎期にプレーヤ毎に、1単位づつ消費される。食料以外の消費財は、専用のカードやチップを用意して、それに各期の番号をふって各プレーヤの前に明示的に置いておく。ゲームの終わりに、或いは途中でもこのチップをみることで各プレーヤがどのような豊かさの生活をしているかを他のプレーヤも知ることができる。
- 借金管理表
プレーヤは羊を借りることが出きるが、その借りた羊は次の次の期に倍にして返却する必要がある。そのため各々のプレーヤがどの期に羊を何頭借りてどの期に何頭返す必要があるかを記録するものを作っておく。これはゲームファシリテータが管理する。
ゲームは、チップを表わすカードと黒板と電卓一つがあれば遂行することができる。(ただしプレーヤも電卓を持っていたほうが便利である)
- 羊の増殖計算
ファシリテータ用の羊の増殖率表
羊の増殖率のメカニズムは、プレーヤには教えない。結果としての羊の総量と増殖率だけを毎期ファシリテータによって通知される。
ここでnをプレーヤの人数とするとき、増殖率は次のようにして与えられる。
1頭〜3*n頭 2倍
3*n+1頭〜3*2*n頭 1.8倍
3*2*n+1頭〜3*3*n頭 1.6倍
3*3*n+1頭〜3*4*n頭 1.4倍
3*4*n+1頭〜3*5*n頭 1.2倍
3*5*n+1頭〜3*6*n頭 1倍
例:プレーヤが5人の時には倍率は下記のようになる。
1頭〜15頭 2倍
16頭〜30頭 1.8倍
31頭〜45頭 1.6倍
46頭〜60頭 1.4倍
61頭〜75頭 1.2倍
76頭〜90頭 1倍
全体が30頭のときに羊3頭持っていると、期末に3*1.8=5.4 ここで四捨五入で5頭になることになりゲームファシリテータから2頭チップをもらう。
【ゲーム遂行上の注意】
* このゲーミングは借金の管理や資金管理が必要なため、プレーヤはミスをしやすい。通常10ー20%のプレーヤは注意散漫でありしばしばミスをする。ゲームは簡易記録表或いはそれに対応する項目を記したカードを利用して記録しながら進めていく。それゆえ計算ミスを防ぐためには細心の注意を払う必要がある。そこで羊チップ(おはじき)と現金チップを利用して、取引で実際にチップを用いることでミスを減少させることができる。
* 付録の環境マネージメントゲーム記入フォームを利用すると、簿記的な形でデータが記入できるので、計算ミスを防ぐことができる。プレーヤが簿記について知らなくても、左側(借方)が実質的な資産項目で右側(貸方)がその内訳であること。内部留保が実際の手元の現金のことではないことなど説明しておけば、支障なくゲームは遂行できる。むしろ学生に対して教育用にゲーミングを用いる場合はこれを用いて、簿記について教えることも可能である。なおこの専用記入フォームを利用するときにも、羊チップと現金チップ
* 簡易記録表を用いたプレーは比較的迅速に行えるが、計算ミスが発生しやすい。これに対して付録の環境マネージメントゲーム記入フォームを利用すると一期のプレーに30分程度はかかる。従って10期を行うのに5時間。最初の解説とデブリーフィングを含めると6時間程度かかる。それに制度を入れた場合などを含めると12時間程度かかる。従って授業で集中講義でやるときはよいが、一般にプレーするには時間がかかる。そこで簡易記録表と羊チップ(おはじき)と現金チップを利用することで、一期を10-15分程度に縮めることが可能となる。
【ゲーム時間との終了】
* プレーヤに終了戦略をとられないためにも、終了時期については明示しない形でゲームを行なう。これは終了戦略を回避するためである。
一般に少数プレーヤの寡占状態がはっきりして倒産が続出するのは、7-8期を越えたあたりからである。できれば12期程度まではプレーすることが好ましい。税制などの制度を入れたときもプレーヤが学習しながら多彩な戦略を繰り出すのを観察するには、12期程度は必要。
【制度を導入したときのプレーの手引き】
* 税金は7頭以上の羊に対して四捨五入で税をかけその分の羊を徴収する。
単純課税:税金羊=(今期羊数小計-6)×税率 を四捨五入したもの
累進課税:税率を羊数によって変える。例えば羊数0-6:税率0、7-10:税率10%、10-15:税率20%、16-税率30%など
* 補助金:補助制度は、税として徴収した羊は5頭以下の羊の持ち主に対して、頭割で交付する。ただし頭割りに税金羊が不足したときは、次期以降のために徴収された羊はプールされる。
* 税制だけを導入したとき、補助制度を追加導入したときを分けてプレーできると面白い。税率については、10%と20%、更に累進課税の三種類をプレーできると面白い。
* 税制などを導入したときには、折々税金を増やすことや税制改革について手を上げる形で投票を試みることが望ましい。
【デブリーフィングのポイント】
* 社会的ジレンマが存在するとき、制度のない社会では、どうして社会は疲弊してしまうのかを論じる。またなぜ寡占、独占状態が生じたかを論じる。
* 戦略のほんの少しの差が、大きく結果を左右することを確認して、初期戦略でどういう差がでたかを論じる。
* この社会を豊かにするには、どうしたらよいかを議論する。その後実際に制度を導入してプレーを行う。
* 制度を導入したときは、税金をなるべく払わないという戦略が出現し、税金を払ってでも豊かになろうという戦略と拮抗する。それが税制や補助制度でどう変化するかを論じる。
環境マネージメントゲーム記入フォーム 名前( )
プレイ場所( ) 日付( ) 第( )期
期首 借方 貸方
現金 ( )MOU 資本金 ( )MOU
羊 ( )MOU ( )頭 借入羊前期 ( )MOU ( )頭
物資産 ( )MOU 借入羊前々期 ( )MOU ( )頭
内部留保 ( )MOU
----------------------------------------------------------------------------------------
小計 ( )MOU ( )MOU
期中意思決定(フロー)借方 貸方
*現金(資産増) ( )MOU 羊(売却) ( )MOU:羊売却 ( )頭
*羊(資産増) ( )MOU 現金(資産減) ( )MOU:羊購入支出( )頭
*食料(資産増) ( 2 )MOU 現金(資産減) ( 2 )MOU:食料購入支出
*消費(費用) ( 2 )MOU 食料(資産減) ( 2 )MOU:食料消費
*物資産(資産増)( )MOU 現金(資産減) ( )MOU:物資産購入支出
*羊(資産増) ( )MOU 借入負債(羊) ( )MOU:羊借入 ( )頭
*借入負債(費用)( )MOU 羊(資産減) ( )MOU:羊返却 ( )頭
*利子費用(費用)( )MOU 羊(資産減) ( )MOU:羊利子支出( )頭
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小計 ( )MOU ( )MOU
課税前羊数=期首羊( )頭+羊購入( )頭+羊借入( )頭ー羊売却( )頭
ー羊返済分( )頭ー羊利子支出分( )頭 =課税前羊数( )頭
*税金(羊費用)( )MOU 羊(資産減) ( )MOU:羊税支出 ( )頭
*羊(資産増) ( )MOU 補助(羊利益) ( )MOU:補助羊 ( )頭
*増殖前羊数=課税前羊数( )頭ー羊税支出( )頭+補助羊( )頭 =増殖前羊数( )頭
倍率 ( )倍 :増殖前羊数×倍率を四捨五入したものが増殖後羊数
*増殖分羊数=増殖後羊数( )頭ー増殖前羊数( )頭 =増殖分羊数( )頭
ここで増えた羊が付加価値の発生による羊の増加として記入される。
*羊(資産増) ( )MOU 付加価値( )MOU :増殖分羊数 ( )頭
*期末内部留保=期首内部留保( )MOU +附加価値( )MOU +補助(羊)( )MOU
-利子費用(羊)( )MOU-税金(羊)( )MOU-食料消費( 2 )MOU=期末内部留保( )MOU
*期末現金=期首現金( )MOU +羊売却:現金( )MOUー羊購入:現金( )MOU
-食料購入:現金( )MOUー物資産購入:現金( )MOU
*期末羊=期首羊( )MOU+羊購入( )MOU+羊借入( )MOU+増殖分羊数( )MOU
+補助羊( )MOU ー羊売却( )MOUー羊借入分返却( )MOUー羊利子( )MOU
-税羊( )MOU =期末羊( )MOU
*期末物資産=期首物資産( )MOU+物資産購入( )MOU =期末物資産( )MOU
期末貸借対照表 借方 貸方
現金 ( )MOU 資本金 ( )MOU
羊 ( )MOU ( )頭 借入羊今期 ( )MOU ( )頭
物資産 ( )MOU 借入羊前期 ( )MOU ( )頭
内部留保 ( )MOU
----------------------------------------------------------------------------------------
小計 ( )MOU ( )MOU
期末総資産=期末物資産+期末現金+期末羊=( )MOU
期末内部留保=( )MOU
今期の意思決定を行った理由: